鴨川、花火の匂い

帰り道、もうとっくに日も暮れて
最寄りの駅に着く頃には辺りが暗くなっていた。

ふと、鴨川に足を運んでみる。

日中はたくさんの人や動物の憩いの場となり
賑やかなここも、この時間になると静かに。

わたしはこの時間の鴨川が好きだ。
気を抜くと、呑み込まれてしまいそうなほど
鴨川は大きく、暗く、
何世紀もの歴史を背負っていて、深い。

呑み込まれるのを待っている時間だけは
全てから解放されているようで、清々しい。

待っていればそのうち
悲しみや苦しみもすべて
呑み込んでくれるのだろうか。

鬱陶しい感情たちが消え、
鴨川に濾過されたわたしは
一羽の鴨となって、鴨川に放り出される。

不安や苦しみとは無縁の一羽の鴨。
そうなれば、嬉しいことや幸せな記憶も
きっと、忘れて、なくなってしまうのだろうね。
人の幸せと、鴨の幸せは違うだろうから。

わたしは、それでもいいと思った。

 

花火の匂いで現実に戻される。

学生たちが楽しそうに
花火をしているのが少し遠くに見えた。
学生っていいな。
自由で、無敵で、きらきらしている。
こういう思い出がきっと、大人になった時
彼らの宝石箱の中で輝き続ける
宝物になるのだろうな。

わたしに見えている鴨川とは別の鴨川が
彼らの目に映っていることを願う。